回答
序破急
じょはきゅう
日本の芸能に共通する理念の一つで、曲や劇の構成上の3段階をさす語。そのもとは雅楽の一曲を構成する三つの楽章をいい、序は緩やかな導入部、破は内容豊かな展開部分、急は急テンポの終章に相当する。この理念は能に入り、一曲の歌舞の展開と一日の上演曲目の配列との二様に適用されるようになる。一曲については序の舞、破の舞、急の舞の三段展開で、能の大成者世阿弥(ぜあみ)は『風姿花伝』において「一切の事に序破急あれば申楽(さるがく)もこれ同じ」と明文化した。さらに『能作書』の冒頭には「序・破・急の三体を五段に作りなして、さて詞(ことば)を集めて、曲を附けて書連ぬるなり」とする。破をさらに破の序、破の破、破の急の3段に分けたのである。一日の演目もこれに準じて五番立てとされた。『習道書』に「能の序破急の事、脇能(わきのう)は序なり、二番・三番・四番は破にて、事を尽して、五番目は急にて果てて」一日の能はなると記されている。『花鏡(かきょう)』にはさらに具体的な詳述がある。
この序破急の理念は下って浄瑠璃(じょうるり)に入り、初め6段または12段だった浄瑠璃の、時代物五段、世話物三段という劇的構成への進展を促した。このように序破急は日本の伝統芸能を貫く構成原理といえるが、西洋でもアリストテレスが『詩学』においてギリシア悲劇の完結性を「初めと中と終わりのあること」と定義したように、劇構成には東西を問わずみられる共通の理念である。浄瑠璃の五段展開は、ローマ劇やフランス古典劇の金科玉条とされた五幕形式に比較されよう。しかも世阿弥が「一切の事に序破急あれば」といったように、「起承転結」の語と同様、演劇・芸能に限らず人生そのものを含めてあらゆる物事に通じる基本的な理念である。[河竹登志夫]